台風の日に配達するか|風速で決める「やめる」基準
台風が近づくと、アプリはよく鳴ります。普段より鳴ります。外に出たくない人が一斉に注文して、走る人は減るからです。
だから台風の日は、「やめどき」を自分で決めておかないと、鳴り続けるアプリに引っ張られます。
この記事は装備の話ではありません(雨の日の装備はこちら)。走るか、やめるかを、気分ではなく風速という数字で決めるための記事です。
結論を先に言うと、気象庁がいちばん軽い段階と呼ぶ風でも、自転車にとってはとっくに手遅れです。その理由から始めます。
1 まず数字で決める — 自分の乗り物の限界はどこか
気象庁は風の強さを「やや強い風」から4段階で表しています。ただしこの表は、歩く人と車を基準に書かれています。自転車の限界は、その表が始まるより前に来ます。
自転車が運転しづらくなる
木の葉や細い枝が絶えず動くくらいの風です。気象庁の区分にはまだ入りませんが、ハンドルを取られる感覚が出はじめます。
向かい風だと、前に進まない
ずっと坂を登り続けているような抵抗になります。ここが自転車の実質的な限界。横風ならバランスを崩します。——それでも、気象庁の表はまだ1段階目にも入っていません。
やや強い風
傘がさせない。高速道路で横風に流される
風に向かって歩きづらくなります。樹木全体や電線が揺れ始めます。車は高速道路で横風に流される感じが出ます。
強い風
風に向かって歩けない。転倒する人も出る
電線がヒューヒューと鳴り始め、看板やトタンが外れ始めます。落ちてくるものがある、という段階です。高所での作業は極めて危険とされています。
非常に強い風
何かに掴まらないと立っていられない
飛来物でケガをするおそれがあります。車も通常の速度で運転するのが困難。細い木の幹が折れ、根の張っていない木が倒れ始めます。
猛烈な風
走行中のトラックが横転する
屋外での行動は極めて危険とされる段階です。多くの樹木が倒れ、電柱や街灯で倒れるものも出ます。
気象庁の1段階目は 10m/s から
「まだ『やや強い風』だから大丈夫」は、自転車には当てはまりません。
車で走る人は、この表の数字がそのまま使えます。軽バンは背が高くて軽いので、横風にはかなり弱い。20m/sを超えたら、走れても橋の上・高架・トンネルの出口のような風の通り道は避けてください。
2 警報を待っていると遅い — 基準は県ごとに違う
「警報が出ていないから大丈夫」。これがいちばん危ない考え方です。警報の基準は、あなたの体ではなく、その県の行政のために決められています。
約 10m/s 超
強風注意報が出る目安です。平均風速がおおむね10m/sを超えて、災害のおそれがあると予想されたとき。——自転車の限界(7m/s)はすでに過ぎています。
約 20m/s 超
暴風警報が出る目安です。ただし基準は都道府県ごとに設定されていて、同じではありません。たとえば東京地方で「暴風」とされるのは25m/s以上です。
つまり、同じ台風でも、県境をまたぐと警報の有無が変わることがあります。隣の県で警報が出ているのに自分の県では出ていない、という日は普通にあります。それは風が弱いという意味ではなく、線の引き方が違うだけです。
もうひとつ、知っておくと見方が変わる仕組みがあります。
| 何で決まるか | 10分間の平均風速。警報・注意報の基準はこれを使うと定められています |
| 平均の意味 | 10分ならして1つの数字にするということ。短く吹いた突風は、平均の中に埋もれます |
| 瞬間はもっと強い | 実際に体が受けるのは瞬間的な風。平均10m/sの日でも、瞬間的にはそれを上回る風が吹きます |
| だから | 「注意報すら出ていない」日でも、瞬間的には自転車が耐えられない風が吹くことがある |
※警報・注意報の基準は市町村単位で細かく定められており、時期によって見直されることもあります。最新の基準はお住まいの地域の気象台の発表でご確認ください。
3 アプリはいつ止まるのか — 止まる前がいちばん危ない
フードデリバリーのアプリは、荒天時にエリア単位でサービスを止めることがあります。実際、2019年の台風19号のときには、Uber Eats が関東(東京・神奈川・埼玉・千葉)・中部(愛知)・関西(大阪・京都・兵庫)で全日サービスを休止しています。配達パートナーの安全を考慮して、という案内でした。
ここで気づいてほしいのは、止まるのは「もう危ない」と判断されたあとだということです。台風は少しずつ近づいてきます。止まる直前の数時間——注文は増え、走る人は減り、単価は上がっている。そしてまだ止まっていない。いちばん稼げる時間帯と、いちばん危ない時間帯が、完全に重なります。
=みんなが休む日ほど、残った人の数字は良く見える。その数字は、危険とセットです。
やめる基準は、走り出す前に決めておくのがコツです。走っている最中に「もう1件だけ」と考え始めると、まず止まれません。「風速◯m/sを超えたらログアウトする」と先に決めて、天気アプリで確認してから家を出る。それだけで判断がぶれなくなります。
※サービスの休止・再開の判断や告知の方法は、サービスや時期・エリアによって異なります。最新の対応は各アプリの通知と公式の案内でご確認ください。
4 それでも走ると決めた日に、やってはいけない3つ
風がまだ弱く、走れると判断した日の話です。台風の日は、普段なら問題にならないことが違反や事故に直結します。
傘をさして自転車に乗る反則金 5,000円
2026年4月から、自転車の交通違反に青切符が交付されるようになりました。傘さし運転はすべての都道府県で禁止されていて、反則金の対象です。片手運転になってブレーキ操作が不安定になるため、というのが理由。風がある日は、そもそも傘が壊れます。
手に持ったスマホでナビを見る反則金 12,000円
配達員がいちばん踏みやすい違反です。風の日は片手をハンドルに取られるので、残った手でスマホを持つと、実質ノーハンドルになります。1件300〜500円の配達なら、30件分がこの1回で消えます。青切符の詳しい中身はこちら。
冠水した道に入る
水の深さは上から見ても分かりません。マンホールの蓋が外れていても見えないのが冠水路のいちばん怖いところです。自転車もバイクも、迂回一択。車もエンジンが止まれば、そこで自力では動かせなくなります。
2つ目の「ながらスマホ」は、道具ひとつで消せるリスクです。手に持たなければ違反になりません。
オートホールド式 スマホホルダー(自転車・バイク用)
★買うときの注意。この商品はハンドル固定用のパーツだけが付属します。バイクのミラー部分に付けたい場合は「ミラー固定版」という別の商品を選ぶ必要があります。同じ見た目でも取り付け方が違うので、注文前にどちらに固定するかを決めておいてください。
スマホホルダーを見る(楽天)→※仕様・付属品・価格は変動します。対応するスマホの幅や、自分の車体のハンドル径に合うかは、必ず販売ページの最新情報でご確認ください。
! ぶっちゃけ言うと — 台風の1件は、普段の1件と同じではない
- 金額が同じでも、中身が違う。普段の500円と、台風の日の500円は、同じ500円ではありません。上がっているのは単価で、下がっているのは安全性です。数字だけ見ていると、この交換に気づけません。
- ケガをすると、その日以降がゼロになる。この働き方には有給がありません。1日休んで失う金額と、ケガで1か月走れなくなって失う金額を比べると、答えはすぐ出ます。事故のときの補償も、思っているほど手厚くはありません。
- 前日に決めておくのがいちばん効く。当日、鳴っているアプリを見ながら「やめよう」と決めるのは、かなり難しいです。台風が来ると分かった時点で、その日は予定を空けない。前日の自分のほうが、冷静に判断できます。
- 休んだ日の売上は、翌日に戻ってくることがある。台風が抜けたあとは、買い物に出られなかった人の注文が動きます。「台風の日に走る」より「台風の翌日に走る」ほうが、条件がいいことは珍しくありません。(稼げる月・稼げない月の波も参考に)
- やめる判断は、続ける人の技術。長く続けている人ほど、休むのが上手いです。今日走らないことは、損ではありません。この仕事は、走れる体が資本です。
台風の日に迷わないために、先に決めておくこと
走る前に「風速◯m/sを超えたらやめる」と決めておくだけで、当日の判断はぶれません。あわせて、雨と風の日の装備と、自転車のルールも確認しておくと安心です。
— あなたの「この風でやめた/走った」判断を募集中。フォームから投稿できます(承認制・辛口歓迎)—